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速度論的識別モード(KD-)HPLC

金属イオンの吸光光度法では誘導体化試薬(配位子)により試料溶液中の金属イオンを一旦,錯体に変換(誘導体化)し,吸光分光光度計で吸光度を測定して定量する手法である.感度と選択性は基本的に誘導体化試薬に支配され,自ずと限界が生じる.本研究室では吸光検出高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を前段分離を有する分光光度計とみて,これに適合する試薬群を開発してきた.その結果サブppbレベルの金属イオンの高選択的定量法を構築することに成功している.選択性の生ずる理由は次の通りである.HPLC分離カラムで金属錯体は遊離配位子や遊離金属イオンと分離されるため,解離反応方向に推進力を受ける.そこで速度論的に不安定な錯体は解離し,速度論的に安定な錯体のみが検出される.いわば分離カラムが錯体の速度論的な安定性を識別しているように働くことから速度論的識別(Kinetic Differentiation)機能が発現し,これに基づく選択性が生じたことが大きな特徴である.以下,最近の展開について述べる.

超純水中の極微量ホウ素の定量システム

半導体製造プロセスにおける洗浄用超純水の水質モニタリングのための指標物質としてホウ素が有用であると言われているが,そのために必要とされる感度(pptレベル)をクリアするホウ素計測法は現実にはほとんど報告されていない.軽元素であるホウ素は,一般的に金属イオンの高感度計測法と言われているICP-MSなどの物理的計測法ではその微量計測は原理的に難しい.また一方で,ホウ素は,極めて反応性に乏しいため比色法などの化学的計測法によるアプローチも容易ではない.これに対し,当研究グループは極めて効率的なホウ素の錯形成反応条件を見出し,これをKD-HPLCに応用することでpptレベルのホウ素定量法の開発に成功した.(Anal. Bioanal. Chem.誌)

本研究の成果は現・福井大学講師・高橋透先生による. 

チアカリックスアレーン迅速溶出法とKD-HPLCを用いる土壌中ppbレベルの交換態Cd, Pbの高感度高選択的定量


 カドミウム(Cd)や鉛(Pb)など重金属で土壌が汚染された場合,雨水等で容易に溶け出す“交換態Cd, Pb”による地下水系への汚染拡大が懸念される.土壌汚染対策法の施行も相まって,土壌中の交換態Cd, Pbの迅速かつ高感度な定量法が求められている.しかし公定法では土壌試料を水で6時間抽出して検液を作成し,高コストかつ高度なインフラを必要とする原子分光学的な手法でこれらを定量しており,そのユーザビリティは高いとはいえない.最近発表者らは重金属イオンに高い親和性を持つチアカリックスアレーン(TCA)を土壌からの検液作成時に用い,交換態Cd, Pbを選択的に10分以内に溶出させることに成功した.これらを金属キレート(ML)に変換し,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離検出することによりppbレベルのCd, Pbの定量ができた(検出限界はCd: 0.63, Pb: 2.7 ppb, ppb = 10–9 g/ml).これは土壌汚染対策法で定める基準を判別するのに十分な感度である.本法は100倍量の銅,コバルト,ニッケル,マンガン,亜鉛が検液中に存在しても妨害を受けない.また,鉄イオンについては4 mMのフッ化物イオンを添加すれば1000倍量の共存を許容できる.以上のように,本法は迅速,高感度かつユーザビリティの高い手法であり,公定法に替わるイノベーティブな手法である.これはTCAによる物質認識とHPLC分離検出という化学機能の協奏により実現した.

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